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「年商3千万円の彼氏」は「凄い」のか

夢とお金の専門家、シナジーブレインの安田 修です。

たまにテレビや雑誌を見ていると「彼氏が店をやっていて、年商3千万円なんです〜」みたいな人が出てきますが、年商3千万円って結構、貧乏なんじゃないかといつも思います。そのときは、素直に「凄い!」と感心する妻の横で、敢えて口には出さない(面倒なので)のですが、改めてそのことを考えてみましょう。

年収と年商の違い

そもそも、この人たちは年商と年収を勘違いしている、もしくは意図的に混同しているのではないでしょうか。年商とはあくまで売上のことであり、年収とは全く別の概念です。お店が全て彼のものだったとしても、手元に残るお金は、売上からあらゆる経費や税金を除いたものです。

ちなみに、年収も額面か手取りかで2割くらい違うのですが、まあそれは今回、置いておきましょう。2割くらいの違いなら、許容できるのではないかと思えるからです。年収1千万円でも800万円でも、どちらもまあ、ストライクゾーンでしょう。年商と年収の違いの方が、遥かに深刻なギャップがあります。

年商(売上)と利益の違い

会社として手元に残るお金は、最終(税引後)利益です。年商すなわち売上と最終利益の間には、深くて長い川があります。まず、モノを売っているのであれば、仕入れにお金が掛かりますね。100円で仕入れたものを110円で売っているなら、その差額である売上総利益(粗利)は10%です。

これだけで、売上は110円ですが、利益は10円なんです。年商3千万円なら、粗利は330万円くらいです。一気にトホホな感じになりますよね。

TKC経営指標(BAST)によると、粗利率(限界利益率)は、時計・眼鏡・光学機械小売業で66.1%、ガソリンスタンドだと14.2%です。彼氏のお店がメガネ屋さんなのかガソリンスタンドなのかで、同じ売上高3千万円でも粗利の金額は2千万円なのか426万円なのかの差が出るということですね。

そして、経営はもっと残酷です。ここから店舗の賃貸料や従業員への給料など、営業に必要な費用が引かれたものが営業利益。更に利子の支払などが引かれたものが経常利益です。で、在庫が古くなって処分したりする特別損失があれば、税引前当期純利益は更に減ります。粗利が1千万円あっても、赤字になることもあります。

どうにか黒字になったかと思えば、そこから法人税が引かれます。それでようやく、税引後利益(≒内部留保)となるわけですね。これしか、会社にはお金が残らないんです。業態にもよりますが、残念ながら、小売りで売上高3千万円程度だと、赤字経営に近いでしょうね。

社長の手元に残るお金とは

ただ、中小企業には良いところもあります。赤字だからといって彼氏が貧乏だとは限らないということです。会社として残るお金は基本的には税引後の利益だけですが、社長個人は違います。大きくは、役員報酬と交際費が社長の自由になるお金として存在します。

会社は赤字でも、自分に給料を払っていればそれは使うことができますし、交際費として使っている経費は彼女との交遊に使えるかもしれません(本当は業務に関係のない経費は認められませんが・・・)。なので、内部留保+役員報酬+交際費。これが「彼」の経済力だと言えるでしょう。

あとは、資産として店舗を持っていたり、会社が過去に大もうけして資産として現預金などをたくさん持っていれば、それも彼の経済力として見ることもできます。借入がないか、資本は100%出資しているか、役員構成などもポイントとなります。

年商3千万円の彼氏が金持ちかどうかを見極める方法

従って、「彼氏の年商が3千万円」というだけで浮かれてはいけません。会社の粗利率、それが無理ならば業態を聞き、役員報酬と交際費はどれくらいかを会話の端々から把握しましょう。可能であれば、損益計算書と貸借対照表を入手し、資本構成なども別途確認しましょう。これはもうデューデリジェンス(DD)ですね。

本気で調べたいなら、帝国データバンクの調書を入手するとか、専門の調査機関(例えば探偵)を使ったりすることも選択肢に入ってくるでしょう。銀行員の担当者とお近づきになり、さりげなく経営状態を聞き出すことも、有益かもしれません(笑)。

結論として

なので、年商で人の価値を判断するのは止めましょう。人間の価値は年商では決まらないのです。年収ならまだわかりますが。少なくとも、「年商3千万円」という情報だけで安易に「凄い!」とか言っていたら、色々と騙されますよというお話です。わざと混同して使う人もいますから。

っという話を、楽しそうにテレビを見ている妻に滔々と説明しようかと少し考えるのですが、何のメリットもないので止めておこうといつも思い留まっています。身の回りの人がこのことで騙されそうになったら、その時には役立つ情報なのかもしれないな、と思ったりもしているのです。ああ、自分、面倒くさい。それでは、また。